無理

学校でいじめに遭ったら無理に戦わず逃げて転校したほうがいい。

自分の入った企業がブラック企業なら無理に働かず辞めほうがいい。

自分にとって嫌な人間関係は無理に続けず付き合いを止めほうがいい。

。。。といった論調が今は結構一般的になってきている気がする。

 

評論家やコメンテーター、いじめ被害経験者などが皆そう言う。

ふと私もその事を考えた。

 

頑張らないと根性が無い。とか、ここで逃げてしまっては夢が叶わないから無理した方がいいとか、一度逃げ癖がつくと人生逃げ続ける事になるとか、そういう考え方もあるとは思う。でもやはり大きなストレスや理不尽、嫌な気持ちがずっと自分に降りかかっている状況に陥ってしまっている場合、やはり私も無理せずに逃げた方が良いと私は思う。

と言うのも私自身が逃げず(逃げる勇気がなかったという方が正確かもしれないが)に会社で働き続けて最終的にある日突然うつ病になってしまった経験をしているからだ。

 

私はある会社で、(大きな意味で)技術職に就いていた。徹夜は当たり前だし、上司は師匠も同然。文句を言える空気もなかった。実際怖いと思っていた。

ひどい時は出勤は月曜朝、帰るのは金曜夜なんてこともあった。自分の仕事が終わっても上司の仕事を手伝わず帰ることは許されない。残業代はみなし残業制なので、残業をどれだけしても給料は変わらない。

と、色々恨み節のように書いてきたが、今言いたいのはその会社、その上司に対しての恨みでも自分の辛かった境遇の悲惨さでもない。その後私に起こってしまった事とその教訓だ。

 

実際、体的にも辛かったし、精神的にも結構やられていたとは思う。

でも、一人前になるために我慢してでも頑張らなければいけないと思っていたし、頑張って一人前になり、世間に認められた人もたくさんいただろう。

自分自身「もう限界だ」とは思っていなかった。このまま無理してでも頑張っていけば、いつかは一人前になれるとも思っていた。危機感はなかった。

 

しかしある日突然それはやって来た。

前年まで大人数でやっていた大きな案件を任すと上司に言われ、「あの大変だった案件を自分が先頭に立ってやれるのか」「絶対に失敗はできない」「自分にその実力があるのか」と大きな不安とストレスに一瞬で襲われた。

 

。。。そしてその日から3日間眠れなくなった。そして大きな不安感に襲われ、布団から出られなくなった。病院に行くと、うつ病と診断された。

案件を任せると言われてから1週間位のあっという間の出来事だ。

それから10年。今は家族の理解や支えもあり、毎日ご飯を作ったり、愛犬の散歩に行ったり、休みの日には妻と出かけたり、旅行に行ったり、それなりに普通の生活を送れるようになった。しかし、月の三分の一位の時間は正体不明の不安に襲われる。うつ病の「不安症状」だ。

家事やある程度の文化的生活を送れてはいるが、始めたアルバイトも不安症状で他の方に迷惑をかけてしまい行けなくなり、辞めるしかなかった。いつ不安症状が出るかわからないので決まった時間、外で働くこともできない。

 

「無理」を続けるとそれが弾けるのは一瞬だ。徐々に限界を感じ、徐々に病気になる訳でも無い。それはある日突然やってくる。

「無理」が注がれたコップはある日突然溢れる。「無理」というテンションがかかる糸はある日突然切れる。実際私がそうだった。

「無理」が弾けた結果、私はうつ病になった訳だが、人によってはそれが自殺だったり暴力だったりするのかもしれない。自分を心配してくれている周りの人が悲しむと言う点ではどれも共通している。

そして一度弾けた「無理」はなかなか元にはもどらない。これも実体験だ。

 

先ほども書いたが私は「限界だ」とは思っていなかった。自覚症状がなかった。それでもある日突然それは弾けた。もし、「もう限界だ」と感じている人の「無理」が弾けてしまったら、結果はもっとひどいものになってしまうのかもしれない。

 

もしこれを読んでくれている人がいれば、自分が許容範囲以上の無理をしていないか、自分の状況は周りにくらべて普通なのか考えてみてもらいたい。

自分の周りの人が無理しすぎていないか、自分の息子や娘、親に何か異変はないか、一度気にかけてあげて欲しい。

自分があまりに無理していると感じたときやはりそこからは一旦逃げた方がいいと私は思う。周りのひとを逃がしてあげられるのであれば、逃がしてあげた方がいいと私は思う。

「無理」から逃げる事自体とてもしんどい事だと思う。

でも「無理」が弾けてしまったらその何倍もしんどい。

 

それでも大事な人の「無理」が弾けてしまった時には、優しく接してあげてほしい。

周りのひとの優しさが大きな力になる。なかなか元に戻ることができなくても、少しづつ気持ちが楽になったり、笑える日がやってくる。

 

無理に「無理」する必要はない。